健康に良い環境づくり
環境問題を分析化学的観点
から研究しています
1. 環境汚染問題
2. タバコ煙の分析
3. 誘導体化分析
1. 環境汚染問題について
環境に存在する有害汚染物質濃度を低減化し,快適で安全な居住空間をつくるためには,化学物質によるリスクの低減を目指すこと(リスク評価,リスク管理)が重要です。また,リスク評価のためには,屋内・屋外環境における平均化された汚染物質濃度を正確に測定することが最低限必要です.
当研究室では,化学物質捕集用サンプラー,分析方法の開発を主に行っています.開発したサンプラーは世界中で販売され,様々な研究にも利用されています.
現在,これらのサンプラーを用いて,ヤンゴン医科大学(ミャンマー)と共同でミャンマーの空気汚染を調査中です.
環境中に存在する化学物質は,一定濃度で存在しないため,リスク評価を行うためには,できるだけ長期間のモニタリングが必要です.現在,長期間捕集可能なサンプラーを開発し,様々な化学物質の季節的変動を継続して検討しています.また,未規制,未知有害物質に関する分析法も開発中です.この他,個人暴露測定用のパーソナルサンプラーを開発中です
2. タバコ煙の分析について
タバコは肺癌だけでなく,ほとんどの癌の発生に影響があるとされ,WHOによると,年間約600万人が死亡しています.
当研究室は,世界保健機関(WHO)タバコ研究 WHO Tobacco Laboratory Networkのメンバーとして,タバコから発生する化学物質の分析方法の開発を行っています。成果の一部はWHOのSOP(Standard Operating Procedure, 標準分析法)にも採用されました。この他,世界各国の研究者に対して分析技術に関する研修も行っています。
最近,電子タバコやiQOS,glo,PloomTECH等の加熱式タバコが急速に普及していますが,これらの製品から発生する化学物質について,新しい分析法を開発し結果を報告しています.
Chem. Res. Toxicol. 2018, 31, 585-593.
Chem. Res. Toxicol. 2020, 33, 576-583.
ファルマシア(日本薬学会)2020, 56, (8), 729-732
本研究室で開発したGF-CX572捕集法,二相溶出法を用いて主流煙を捕集・分析を行うことにより,フルフラール,2,5-ジメチルフラン,アセトール当の微量ガス状成分からニコチン,水分,グリセロール,メントール等の粒子状主要成分まで同時に分析することが可能になりました.加熱式タバコから発生する化学物質を分析すると,ほとんどの物質は,通常のタバコのほぼ半分以下の値ですが,多量のグリセロール,メントールが検出されました.その為,発生した化学物質の総量は,通常のタバコを上回る場合もあります.
燃焼タバコ代替品としては,先ず,電子タバコが販売されました.これは,E-リキッド(プロピレングリコール,グリセロールと香料から構成)をニクロム線で加熱し,発生するミストを吸煙する喫煙具であす.2010年頃から販売されていますが,日本では薬機法(旧薬事法)によりニコチンの使用が禁止されているので,ニコチンを摂取することはできません.
当研究室は,E-リキッドに使用しているプロピレングリコール,グリセロールが,ニクロム線による加熱で酸化され,ホルムアルデヒド,アセトアルデヒド等のアルデヒドの他,プロピレンオキサイドやグリシドールのようなオキサイドが生成することを世界で最初に報告しました.これらの物質は発がん性を有するので,注意が必要です.
3. 誘導体化分析について
空気中には反応性が高く不安定な物質が多く存在します.これらの物質は分解しやすいので,分析が困難です.化学反応を利用して,不安定な物質を安定な物質にして分析する方法が誘導体化分析です.
私は長年,様々な誘導体反応を見出してきましたが,最近15年くらいは2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)誘導体化法の研究を行っています.右の図は,分解しやすいオゾンをピリジンアルデヒドに誘導体化し,共存するカルボニル化合物と同時に検出した時の反応です.この他,異性化反応,カルボン酸との反応,ヒドラゾン誘導体の還元的アミノ化など非常に多くの知見を得ていますが,現在も新しい誘導体化反応を検討中です.